シミュレーターで見るバントの効果と打線の組み方

2020年4月1日水曜日

セイバーメトリクス

t f B! P L
使用するシミュレーターはもちろんこれです。
https://pennantspirits.blogspot.com/2020/03/v100.html
全体的に画像多め。

バントの効果

得点数への影響

論より証拠、実際にバントの有無で得点力を比較してみましょう。
まずセ・リーグの平均的な野手8人+投手1人の打線で、投手にバントさせます。
無死または一死で1塁・12塁の場合に100%バントします。なお、バント成功率は平均的な投手と同じ58%に設定します。
バント無しで1000年分

こちらはバント有り

現実のNPBの投手の犠打数は打席あたり10.7%でシミュ上では10.9%なんで、まあほぼ同じくらいの企図数ではないかと思います(下位打線の出塁率が現実より高い分ちょっと高い?)。いくら「打てる投手」でも無死一塁とかで回ってきたらほとんどはバントさせますからね。
得点率の方はというと、犠打させてもほぼ変わりませんでした……というか、減ってます。誤差レベルですが。元の打力は低いのですが成功率も低いので大きな変化は生まれない模様。一応標準偏差(得点数のブレ)は僅かに減っているので、ゲッツーを減らす等の効果はあるようです。

続いて2019年一番多く送りバントを決めた野手である広島の菊池。その数28回。
なんと年間でバント失敗は1度もなかったそうです。すごい。
というわけで、菊池がバントを1度も行わなかった場合と、無死1塁に限定して年に28回バントを行い100%決めた場合の得点を比較します。
バント無し

バント有り
はい、予想通りですが減りました。菊池のリーグ平均レベルの打力であれば、100%バントを決められる技術をもってしても年間で6点強ほどマイナスを生んでしまいます。本塁打4.5本分、打者一人への采配でこれだけ変動するのは大きいか小さいかと言われたら大きいです。
まあ、セイバーメトリクスでバントの有用性が議論される際は大抵バントは100%成功する前提で語られるため、100%になったから有用性が変わるようになるなんてことは無いのですが。

バントが有効になる選手

それじゃ結局バントの損益分岐点はどれくらいの打力なのか?ということになってきます。
先行研究として既にこのような記事がありますが、これもシミュで回してみたほうが感覚的にわかりやすそうです。というより、実際は対戦投手や後続の打者との兼ね合いもあり一概には言えないんで、都度シミュレーションしてみるのが良いとは思います。

打線のうち、対象者以外の8人をパの平均的な野手にして、対象者が無死一塁の状況で毎回バントした場合と毎回打たせた場合を比較し、それぞれの無死一塁からの得点期待値・得点率をまとめた表。

 一番上にはリーグ平均の打力を持つ打者のヒッティング時の得点期待値・得点確率。その下にはバント成功率100%の場合・82%の場合の得点期待値・得点確率と、それぞれの上下にはヒッティングさせたときに得点期待値・得点確率が近くなる選手を記載しています(バント成功率82%とは野手の平均値)。
平均的な打者にバントをさせた場合、得点期待値は0.810引く0.687で0.123点、約15%ほど減ることになります。

バントの得点期待値がヒッティングよりプラスになる打者はバント成功率100%だとOPS4割、82%ならOPS.339と、もはやセの投手が比較対象になるレベルです。この程度の打力を見込むとなると、バント以前にその打者を打席に立たせる事自体に疑問符が付くケースもありそう。

確率の方は100%バントを決められるのであればOPS8割弱、82%なら6割5分くらいが損益分岐点になります。とはいえ期待値の差は如何ともしがたく、これくらいの打者のバントが有効な場面は確率だけが求められる場面(9回以降かつ同点の場面等)に限定されます。


打順の重要性

バントから話は変わって今度は打順の話。
まず2019年のパ・リーグの平均的な野手を9人並べた打線で1000年間シミュを回してみます。
パ・リーグ野手の平均成績×9

実際のリーグ平均得点が4.31点ですから一致していますね。
OtherStatsから状況別の得点期待値を見てみます。
状況別の得点期待値
リーグ全体の得点率が例年に比べてやや高いため、期待値も全体的に例年より高め。
当たり前の話ですが、無死だと得点が入りやすく、2死では入りにくいです。
ノーアウトなら出塁するだけで得点期待値は0.483→0.840で+0.36点、それに続けば更に+0.53点と、とにかくアウトが少ない間にいかに走者を出すか、どれだけアウトにならないかが重要なスポーツということがわかります。
2死走者無しだと全体的に無死から期待値8割減と言ったところで、スリーベースを打っても0.106→0.357で+0.25点。割りに合わない。

話は逸れますが、無死走者無し(左上)は1イニングに1度必ず遭遇し、アウトを取られる前に本塁打を打たない限りは同一イニング中に再発することはありません。そのため発生頻度は1試合あたり9回前後になることが多く、9倍すると試合ごとの平均得点に近い数字になります。無駄知識でした。
なお、全員が同じ打力を持つ打線なので状況別の得点期待値は1~9番でほぼ同じでした。

イベント別。
イベント別の得点期待値
1・2番の出塁、及び二・三塁打数が非常に重要で、3番はそれらが低め。代わりに本塁打は3・4番が一番大事。
トータルで見ると1≧2番>4番=5番>3番>6番>789番という感じ。よくセイバーメトリクスでは1番・2番重視、3番軽視とされますが、その傾向がよく表れています。


状況の発生割合。
長い。
まず目を引くのは1番打者の無死走者無し率の高さでしょうか。4割弱と、2・3番の2倍以上あり、1番打者の出塁率の重要性を再確認できます。

2番打者の無死走者無し率は低く一死走者無し率は非常に高いのですが、無死走者1塁率も相応に高いうえ、二死で打席が回る割合も1番打者並に低いので、ここもやはり出塁率が重要なようです。
この中で一番重要性が低いのが3番。何せ最も得点の期待出来ない二死走者無しで回ってくる割合が22%と、全打順でぶっちぎりのトップ。無死12塁で打席に立つ割合も他より高いのですが、それでも3%台(全打順の平均は1%台)では大きな利点になりません。

4番打者は無死走者無し率が1番打者に次いで多く、2死走者無し率も1・2番並に低い。全体的に求められるイベントのバランスが取れていて、4番最強打者理論にもある種の妥当性を感じられる数字になっています。

ただし上記は全て1番から9番までが平均的な打力を持つ前提のものです。
要するに、前の打者の打力が均一であるため、終盤は1・2番でも4番でも回ってくる打席の状況はほとんど同じということ。実際の打線では下位打線ほど打力が落ちていくことから、もう少し1・2番に不利な状況が増えて価値が下がるものと思われます。



今度は2019年のセ・リーグの平均的な成績を見てみましょう。1~8番は平均的な野手、9番は平均的な投手です。
セ・リーグ野手の平均成績×8+セ・リーグ投手の平均成績×1

平均3.85点で現実の得点率は4.20点なので結構開きがあります。チームOPSもシミュは.685で実際は.716。これは投手の打席の割合が原因。
2019年のセ・リーグの打席数は野手31189に対し投手は1614、投手の打席率は約5%でした。一方でシミュレート上では代打は一切出されず途中交代もないため、約10%。ここで大きな差が付いたと考えられます。


続いてイベント別。
イベント別の得点期待値
総合的な序列は2番≧1番=4番=5番>3番>6番>789番といったところ。DH有りと比べた場合の違いとしては、得点率が下がっていることによる全体的な期待値低下もありますが、9番から繋がる1番打者のイベントの価値が減少して2番>1番になっていたり、4・5番のイベントの価値は相対的に向上したりと、投手から離れている打順の重要性が増している点が目立ちます。


発生率の差分
状況の発生割合。を出すだけではピンとこないと思うので、パ・リーグ版との差分。
9番で攻撃を終えることが増えたため、1番打者の無死走者無し率・2番打者の無死1塁率は増加しました。反面、1死または2死走者無しでの打席も増え、それ以外の塁上に走者を置いた状況の発生率はすべて悪化。同じように、3番打者も二死走者無し率が上昇しています。
投手から打順の遠い4~5番はそれほど影響を受けていません。

実際の試合では上で述べた通り、投手の打席の半分くらいは代打などで野手が立ちますので、影響力としてはもっとマイルドなものになりそうです。
(シミュレーターに代打設定はそのうち実装するかもしれません)


さて、長々と書いたものの、実際に何度か打線を組み替えてシミュレーションしてみた方は何となくわかると思いますが、打線を組み替えてもイメージほど大きく変動するものは多くありません。
どれも元々の打線でも1~5番に強打者を置いており、せいぜい2番のバントマンを下位に下げれば若干改善する程度。2019年は以前と違い強打者を置く打線も多く見られましたし、変化はますます減ることでしょう。
よって、元のものから大きく改良できたとしてもせいぜい年間10点以下の変化にとどまることがほとんどです。
10点以下の差は無視できるほど小さいものではないのですが、一方で1年1年に目を向けると、同じ打線・同じ選手でも得点数は100点やそれ以上ブレていることに気がつきます。

10年間試行した場合の得点分布

選手がイベントを起こす確率は一定に定められているにも拘らず、成績のブレや残塁率のブレによって得点が大きく違ってくるようです。
そして、このシミュレーターは予め収束する成績がはっきりとわかっていますが、実戦ではそのような確証は当然なく、過去の実績や選手の調子を見て推測するしかありません。
打線の組み方自体よりも、そもそもその選手が実際にどれだけ打てるのか、それをどの程度見込むのかが重要なように思えます。
だからと言って効率を無視した打線の組み方をしても良い、ということにはなりませんが。

まとめ

・バントの得点期待値の損益分岐点は大体OPS.340、100%成功で約4割
・バントの得点確率の損益分岐点は大体OPS6割5分、100%成功で8割弱
・1番・2番・4番・5番に優先してチーム内で打てる打者を置こう
・打順を工夫するより起用した選手が少しでも多く働いてくれることのほうが影響としては大きい

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