「初見」記事を書いた経緯

2020年10月12日月曜日

セイバーメトリクス

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 先日「うちの打線は初物に弱い」は本当か?というコラムを公開しましたが、執筆中やそこまでの経緯を少し語ります。ちなみに、前回と同様に今回のものも執筆自体は7月くらいにはほぼ終わっていたりします。

記事を書こうと思ったきっかけ

 元々は昔からネット上で散見される「○○打線は初物投手に弱い」という言葉がきっかけでした。こうした言葉は、試合前ではやたらよく見かける割に、いざ試合中に打ち込むと忘れ去られ、逆に抑えられると「やっぱり初物には弱い」と評されます。

  確証バイアスだか後知恵バイアスだか、野球ではこういうのが多いですよね。先発を引っ張る采配に「ここで続投はありえない」と言い、そこから三者凡退すればそんな発言は忘れてしまい、逆に打たれると「やっぱり降ろすべきだった」と主張する。

 野球ファンなんてそんなものだと言ってしまえばそれまでですが、それは実際に数字としてどれくらい影響があるのか調べる、即ち定量的にるというのは、セイバーメトリクスにおける基礎的な思考です。

 

  また、個人的な印象として、投手の年齢曲線は俄には信じ難かったというのもありました。

1.02 - Essence of Baseball | DELTA Inc.より

 もちろん、MLBも同様の傾向にあることは知っていましたし、過去に何度か自分でも調べてはみたのですが。いくら投手の肩肘が消耗品とはいえ、20代前半から劣化が始まるのは流石に極端ではないかと。

 過去に二軍の投手の年齢曲線を調べたこともあって(同じことを最近note記事にされた方がいらっしゃるのでリンクを掲載しておきます)、そちらの衰えは20代後半に始まります。これは野手のグラフに近い形で、一軍投手のものと大きな隔たりがあります。

 試合数が少なく投手の消耗が少ないというのが第一に考えられるのですが、それ以外にも、優秀な選手は一軍に昇格すること・勝利のみを追求する場ではないことから選手の出場機会が分散するため、慣れられにくいというのが大きなファクターとしてあるのではないかと考えました。

 

 それとは別に、投手の成績曲線というのは、今は昔ペナスピというシミュレーションゲームを作っていたときも頭を悩ませていた問題でもあります。上の年齢曲線を再現しようとすると、どうしても大卒くらいの新人でリーグを代表するレベルのスーパーエースを登場させる必要が生まれてしまいます。それもかなりの頻度で。そのあたりちょっとリアリティが無いと感じつつも、解決策を見いだせないでいました。

 もしも、対戦回数を重ねるごとに球筋に慣れられてしまい成績が落ちていくのであれば、この極端なグラフにも納得がいきます。

 これらから、自分の中ではある程度こうなるであろうという確信めいたものがある中での検証でした。とはいえ、ここまではっきりとした傾向が出るというのは出来すぎではないかと我ながら勘ぐってしまいましたが。


分析の過程

 基本的にはコラムの中で辿ったとおりの過程を経て、過去10年分のデータから検証を行いました。が、いくらか省いた部分もあります。 


条件となる対戦回数

  注釈の「対戦回数の条件を4回、5回と増やしていっても傾向は変わらなかった」という部分なんかはそれで、回数を増やしてもすべての場合で1回目の成績が一番良く、2度目で防御率にして0.30点ほど悪化し、条件に指定した回数では成績が最も悪い数字になります。
3回防御率三振四死球本塁打BABIP
13.2718.37%9.09%2.07%.277
23.5517.15%9.17%2.06%.282
33.9316.97%9.38%2.16%.291
4回防御率三振四死球本塁打BABIP
13.1018.49%8.85%2.04%.275
23.4217.13%8.79%1.97%.277
33.5217.08%9.14%2.09%.281
43.6917.79%9.06%2.26%.295
5回防御率三振四死球本塁打BABIP
12.9818.87%8.78%1.94%.272
23.3217.58%8.79%1.94%.273
33.4317.29%8.92%2.04%.280
43.4018.19%8.68%2.09%.283
53.8217.64%9.27%2.06%.292
 
 2回目以降、各スタッツは比較的ゆるやかに推移するのですが、BABIPは一貫して最後に跳ね上がります。文中でも触れた生存バイアスによる部分が大きいものだと考えられるため、最後のものは除外するのが適当だと判断しました。
 
 なお、かつてトム・タンゴが試合内の周回効果で2巡目以降に大きく成績が低下するのは三振率であるとしており、今回の検証結果と同様の傾向になりました。  
 

 利き腕と身長別の初物成績

「うちの打線は初物に弱い」同様に「初物左腕に弱い」や「初物長身に弱い」といった主張もよく見られるため、コラム中と同じ条件で投手の利き腕別の初物成績も調べました。

左腕右腕
1回目2.983.39
2回目3.623.53
差分+0.64+0.13
 
 左腕の方が2度目で成績を落としやすいようです。
 次は、同様に身長190cm以上と未満とで分けた成績。

190cm以上190cm未満
1回目2.813.39
2回目3.343.61
差分+0.53+0.21
 身長が190cm以上だと2度目で攻略されやすくなるようです。

 左腕・長身共に、希少性が高く投手ならば長所になりやすい特性で、これら持つ投手は初見で攻略されにくいと考えられます。
アマチュアだとこうした特性を持つ投手は更に希少なうえ、プロ野球のペナントレースに比べて対戦回数が少なく、より活躍しやすくなるため地雷(過大評価)であるとされる一因となっているのではないでしょうか(特に高卒の場合は甲子園がトーナメント式であるため顕著)。
 ここのところは今になって考えたらコラム内に入れたほうが良い内容だったなと思ったり。何で入れなかったのか、理由はよく覚えてません…

移籍選手の成績と翌年成績の比較

 結果より初対戦時の成績が最も良くなりやすいということが読み取れますが、初対戦から1回目と2回目を抽出した場合、2回目の方が必ず後に来るのですから、その間に疲労が溜まりパフォーマンスを低下させる要因になっている可能性があります。とはいえ、対戦回数を重ねればその分必ず疲労は貯まるはずで、慣れと疲労はある程度リンクしており、 完全に分けて考えるのは難しいです。
 一応方法が無いわけではなく、例えばその投手が特定球団と1~2度目の対戦を行った場合、それと同時期・同間隔で2度目以降の対戦を行った別の球団を比較対象とするといったやり方が考えられました。が、ただでさえ複雑化している条件が更にわかりにくくなり読者の理解の妨げになりますし、これはこれで別のバイアスが発生しかねません。
 そのため、今回は別リーグに移籍した選手の成績にフォーカスを当てることで成績の低下が慣れであることを主張しました。このへんはもうちょっとうまいやり方があったかもしれません。
 

 記事を書こうと思ったきっかけのところにもある通り、投手は早い時期にピークが来る要因の一つはこれではないかと思ってのものでした。そのためメインの分析はそこで終わりで、後は参考データのような位置づけになっています。

初物に強いチーム・選手のデータ

 というわけで、参考程度のものとして調べました。

 初物に弱いというと聞こえは悪いですが、逆に言えば2度目ではきちんと攻略できているということですので、上位なら優秀だとか下位なら駄目だとかそういう話ではないです。

 打席の内容を切り分けて考えても、上位は2回目に比べて初見時のSO%が低かったりBB%が高かったりしたという当たり前の結果にしかならず、「このチームが初物に強かったんだな」と判断する以上のものにはなりませんでした。

 

コラム内で該当年の球団別「差分」(初見得点率-2度目の得点率)と翌年の「差分」との相関関係は0.362と記述しましたが、他の打撃スタッツとの相関係数も掲載しておきます。

 初見差分と各スタッツの相関


相関係数
翌年の差分0.362
得点0.025
安打-0.001
二塁打0.043
三塁打-0.005
本塁打-0.070
盗塁0.053
盗塁死-0.024
犠打0.208
犠飛0.206
四球0.072
死球0.107
三振-0.028
併殺打0.058
打率0.018
出塁率-0.034
長打率0.064

「元々三振が多いチームは初物相手に大振りしてけちょんけちょんにされやすい」「足のあるチームほど引っ掻き回して精神的なゆさぶりをかけやすい」など特定の傾向は見られませんでした。

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